響き第5章台湾の原住民族編の旅で、エリスの他に、キーパーソンになったのが、アミ族出身で、原住民族委員会 行政院 局長 王慧玲さんだ。
台湾の南部の都、屏東(ピントン)市。観光地でも有名な、「三地門郷」に、原住民族の村があり、そこのトップにいるのが、彼女である。
僕のインタビューに、涙を流す王さんの姿は、一生忘れられないだろう。
その涙には、原住民族を愛する彼女の熱い思いがあった。
響きとしては、いきなり台湾原住民族のトップにご縁を頂いて、それだけでも信じられないくらいの奇跡であったが、これで終わらなかった。
王さんの取材を終え、僕はさらに旅を続ける。
日本に帰国が間近となったある日、台北市内で行われた、都市部に住んでいる原住民族のお祭りを取材している時、偶然にも、王さんに再会したのだ。
その意味は大きい。
以下、ディレクターズ・ノートより、王さんのインタビューと、それから一ヶ月後の帰国間近の偶然の再会の記録から抜粋。
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【ディレクターズ・ノート:人情】 現地時間 2015 8.31 8:30
「言葉」って、変化してゆく。
それは、「言葉」自体が変わるのではなく、「自分」が変わるからだと思う。
例えば、僕が二十歳前後に使っていた「愛」と、今の「愛」とは、もはや別物と言ってもいいだろう。
台湾に来て、一体僕に何が起きているのだろうか。
一昨日はノートを書く体力をも無くして、気を失うように眠った。
そして、昨日の撮影をもって、台湾南部の屏東(ピントン)から離れ、今日から東部の花蓮(ファーレン)に行く。
この二日間の取材をノートに書こうとすると、途方に暮れる。
どうして、これを可能にするのか、、、
やっと言葉が見つかった。
それは、「人情」
前述の「愛」と同じく、今の僕にとって、「人情」とは、人と人のつながりをもっとも正確に言い表すものになった。
「言葉」に対して、とても素直になってゆく。
「素直さ」は、感謝につながり、「たった一つ」の自分に出会える、もっとも大切な道ではないだろうか。
さて、一気に取材を記録しよう。
29日の朝、ボランティアで通訳をして下さる「鄭さん」と合流。この日は、石先生ご夫妻は別の用事で来られない為、鄭さんと二人。
原住民族委員会行政院から、案内係に若いスタッフを付けて下さった。
この方もとてもプリティーな人で、キャメラの三脚を終始持って下さるなど、僕のアシスタントも担って下さった。
それから、一同、台湾原住民族のダンスパフォーマンスを撮影。
圧巻。DNAが震えた。
殊に、台湾の離島にいる「タウ族」の男性の踊りは、躍動感溢れるもので、鳥肌が立ちっぱなし。
日本のフンドシのようなものを付けて踊る。
これも、行政院の全面協力の元に行われた。
響きのキャメラに原住民族の踊りが記録されてゆく。
「やっぱり」と、自分自身も思ったが、僕も原住民族ダンスにデビュー。ステップを教えて頂いて、一緒に踊った。
これがとても楽しいので、日本に帰ったらみんなに教えたい。
そして、観客が誰もいなくなった後に、ダンサーの方々に、一言ずつコメントを頂いたあと、リーダーにインタビュー。
みんなプロのダンサーではないけれど、原住民族の踊りの継承の担い手として、誇りを持って取り組んでいると言う。
照明や音響付き劇場で行われるが、このように現代の潮流の中で、逞しく自分たちの伝統文化を守り、次世代に伝えて行こうとする情熱に、学ぶものは多い。
ちなみに、今回の取材は、その時々に同行される方々が、僕をとにかく撮って下さるので、これだけ写真が残るのは初めてだ。感謝。
それから、原住民族委員会の行政院、局長の王さんのインタビュー。
一時間に及ぶものになった。
王さん、インタビュー中に涙を流す。
王さんの深い思いに触れた。
王さんの秘書官が、インタビューが終わってから、僕に彼女の言葉を伝えて来た。
「あなたのインタビューが、王さんの大切に思っていることに触れてくれたので、感動の涙を流したのよ」
僕も、もらい涙になった。こちらこそ、深く感謝。
そして、15:30から、お祭りの開会式を撮影。
なんと、僕の頭に花飾りが載せられ、式典の中で来賓として、紹介された。感謝。
そのあとは、原住民族の料理が振る舞われ、懇親会に。
長い長い一日が終わって、部屋に戻ってから気を失った。
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【ディレクターズ・ノート:神様の計らい】 現地時間 2015 9.14 09:30
響き第5章台湾原住民族編も、残り風景となり、油断していた。
昨晩に起きた出来事は、あまりにも想定外過ぎた。
「奇跡」を超えた世界に僕はいる。その確かな感覚を、いつの間にか持ちはじめている。
それとは、、、
「ただありのままにいられることへの喜びと感謝」
この世界は何ひとつ特別なことはない。ものごとは起こるべきして起こる。それを100パーセント受け入れた時に、体感する世界、、、奇跡を超えた世界、、、無限に広がる喜びと感謝の気持ちだけの、シンプルな世界。
僕は、そこにいる。
その世界で起きる神様の計らいは、あまりにも完璧な上、いつもながら鮮やかに決めて下さる。
昨晩、僕はチーム・エリス一同と一緒に「都市原住民」と言われる人たちの伝統芸能のステージを見に行った。
彼らは、アミ族。
演目の中に、光福で取材したアミのタバラン部族がいたので、嬉しかった。
ふと客席を見渡したら、、、
そこになんと、
台湾南部、屏東、三地門の原住民族村の局長、王さんがいらっしゃるのではないか!?
僕のインタビューに涙を流した彼女の姿は今も鮮明に覚えている。
台湾の原住民族の社会では、挨拶にハグすることはまずない。
しかし、王さんも僕に会えたのがとても嬉しかったようで、たくさんの観衆がいたにもかかわらず、ハグを交わした。
回りにいた人たちも、僕が何者か分からずに、その喜びの波長に飲まれて、拍手が沸き起こった。
原住民族村でインタビューした王さんが、今、ここ、台北の「都市部原住民」の、お祭りにいる。
二つのストーリィが、交差した。
これは、ドキュメンタリーとして、大きい。
三地門の取材と、都市部原住民の取材が、王さんによって、つながったのだ。
神様が、仕込んで下さった。
地元メディアもいる中、僕は来賓扱いで、客席の最前列でキャメラを回すことが出来たうえ、始まる前の楽屋にもお邪魔して、これから本番というエキサイティングなシーンも撮れた。
なぜか、彼らと出会ったその瞬間から、あまりにも普通の友だちで、撮影しているのか身内話しているのか、自分でもよく分からなかった。
本番の終わりに、都市部原住民にインタビュー出来ることになったが、通訳がいないので、どうなるだろうと思っていたら、なんと、エリスさんが、聞きたいことを、僕の代わりにインタビューして下さった。 |