HIBIKIの旅は、オーストラリアの先住民族、アボリジナルからはじまる。
文字文化を持たないアボリジナルは、今から4万年〜6万年も前から、生活の知恵や歴史、掟、猟の方法から葬式、天地創造の神話などを歌や踊りを、先祖代々、アートとして伝承してきた。
これを「ドリーミング」と呼ぶ。
アボリジナルは、太古の先祖からの愛のメッセージを今もなお、正確に、大切に守って生活に活かしている。なぜならば、そのメッセージには、過酷な自然環境で生き延びる為の知恵が詰まっているからである。
HIBIKIのクランクインをアボリジナルから始めるのは、先述の宮古田老の大海嘯記念碑のように、先祖代々から伝わるメッセージは、伝説に終わらすではなく、本来はそこに子孫の私たちが地球と共に幸せに生きる英知で詰まっている、その例が彼らの「ドリーミング」に分かりやすく現れているからだ。
まさに、HIBIKIのテーマの先頭に立つ先住民族である。
その後、HIBIKIは、イングランドのケルト民族、アラスカに住むネイティブ・インディアンのクリンキット族、北アメリカ大陸のホピ族、台湾の山岳民族、古代ハワイの先住民族、日本のアイヌ民族と、取材を進めていく。
「7つのはじまりと、5つの空白」
HIBIKIではそう呼んでいる。取材する先住民族の選定にあたって、「空白」を設けてあるのだ。
なぜならば、はじめの7つの先住民族を取材していく中で、残りの5つの先住民族に導かれたいからである。想定外の旅をするのだ。
HIBIKIは、ドキュメンタリー映画のかたちを取るビジュアルメッセージである。ゆえにテーマに導かれるという概念は、HIBIKIに限らずドキュメンタリーを制作する上で重要な心構えであるのだ。
「ドキュメンタリーは奇跡が突き動かす」
では、どうして「12の先住民族」なのか。
12は、「サイクル」を表す。12ヶ月で1年という周期。そのサイクル。HIBIKIはその自然の摂理にシンクロするビジュアルメッセージでありたい。
もうひとつ大切なコンセプトは、12の先住民族を紡いでいくけれども、オムニバスのように各先住民族を区切って表現しない。
これまでの先住民族に関するドキュメンタリーは、何かのテーマに沿ってひとつひとつを表現したものがほとんどだ。しかし、HIBIKIは、12もの先住民族を紡ぐ、つなぐのである。
紡いだ先に見える世界は、、、未知。
ドキュメンタリーだから、「未知」という表現が今のフェーズでは適切であろう。
しかし、その未知の世界には、何かとてつもなく大きな愛があるような気がする。
地球の、大自然の、遙か昔の先祖の、それらの大きな愛に包まれた、「今を生きる私たち」の鼓動が聞こえてくるのではないかと思う。