世界の12の先住民族の物語を紡いでいく旅。ドキュメンタリー映画「響き 〜RHYTHM of DNA〜」
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12の先住民族
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DNA
12の先住民族
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ABORIGINAL:アボリジナル
CELT:ケルト民族
ALASKAN TLINGIT:アラスカクリンキット族
HOPI:ホピ族
TAIWANEE HILLTRIBE:台湾の山岳民族
NATIVE HAWAIIAN:古代ハワイの先住民族
AINU:アイヌ民族
UNKNOWN:未知
CELT:ケルト民族
主なシーン
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【ディレクターズ・ノート:農夫トム(前編)】
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農夫でストーリィ・テラーのトム 現地時間 2014.5.17. 11:00

 ケルト、ストーリィテイラーの農夫トムが住んでいるところは、ウェストポートから北東に車を走らせること約1時間。

 どこまで走っても森。彼が住んでいる家は突如現れた。時はお昼の2時を回っていた。

 ふる〜い、とにかく古い家。

 しかし、ノックをしても誰もいない。

 前日の夜、E子さんが電話で明日訪ねたいとトムに言ったら、2時ならいるよと、ぶっきらぼうな返事ですぐに切られた。

 「アイルランドの古い男は電話で話すのが嫌いなのよ。会って話せばきっと大丈夫、大丈夫」

 と、E子さん。

 というのも、E子さんと旦那のエドも、トムに面識はなく、友だちから彼のことを聞いていただけのようで、この電話がファーストコンタクトだった。

 ここで問題発生。

 E子さんの音楽レッスンが3時から始まるので、2時から取材して仮に1時間で終わったとしても、ウェストポートに戻れるのは4時過ぎ。ということは生徒を待たせることになる。

 ほんとうは、トムにもっと早く会ってくれないかその交渉もしたかったのだ。しかし、こんなにぶっきらぼうに電話を切られてはどうにもならない。

 「大丈夫、大丈夫。生徒を少し待たせればいいので心配ない」

 と、笑顔のE子さん。

 僕はたいへん申し訳なく思ったが、エドも心配しないでと僕を慰めた。

 で、当日。

 2時の約束のトムがいない!

 それでなくても時間がないのに、彼はどこに? 僕は焦った。

 エドがトムに電話をかけた。

 「彼は奥さんを街まで送っていったらしい。あと40分は戻らないそうだ」

 「・・・・・・」

 途方に暮れる3人。

 エドとE子さんが、早口の英語で何やら話した。どうすればいいのか悩んでいるようだった。

 しかし、次の瞬間、E子さんがぱっと咲く笑顔で、

 「大丈夫、大丈夫。私の生徒にもっと待ってもらいましょう」

 すごい解決法だなぁと思った、「待たす」

 でも、トムが戻って来たとしても取材出来るのはせいぜい30分か、、、仕方ない、出来るだけやってみよう。

 そして、彼が戻った。しかも、1時間あとに。

 僕のE子さんとエドに対する「申し訳ないレベル」がピークに達する。

 しかし、E子さんがまたも、

 「大丈夫、大丈夫」

 さて、この先、どうなることやら、トムの取材。

 (中編につづく)

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【ディレクターズ・ノート:農夫トム(中編)】
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聖なる妖精の木 現地時間 2014.5.17. 13:00

 1時間も遅れてやって来たトム。しかも、現れるやいなや、ぶっきらぼうに、

 「お前たちに少しだけ俺の時間をやる」

 と、僕たちにうんとも言わさぬかまえ。いきなりすごい迫力で僕たちを威圧した。

 しかし、僕はしっかりトムの目を見据えて、深く深呼吸。そして、心の中で短くお祈りした。

 「ケルトの神様、どうかトムと心と心で分かち合いますようにお手伝いください」

 そして、僕は自分の英語で自己紹介した。

 トムの目が一瞬大きく開いて優しくなるのを僕は見逃さなかった。僕が、チャレンジしたいのです、と口に発した時だ。

 「分かった。俺の家に入れ」

 とにかく、門前払いは逃れた。ふぅ。

 トムの招きで家に入る。

 「!」

 驚いた。僕は中世のケルト人の生活を知らないけれど、見ただけでそれがどれくらい古い生活様式か分かる。

 慣れた手つきで暖炉に火をつけると椅子にどさっと座った。

 インタビューのはじまりのサインと受け取った。

 僕はすばやくキャメラを置いて質問しはじめる。

 最初のうちは、僕が質問してE子さんが英語に訳す。トムが話してE子さんが今度は日本語に訳す。

 しかし、この作業は5分もしないうちに消えた。

 僕とトムが、言葉を越えてコミュニケーションを取り始めたのである。

 そばでその様子を見ていたE子さんも、それを感じて自然に通訳をやめる。

 今度はE子さんも聞きたいことを聞きはじめる。

 エドも聞きはじめる。

 トムから逆にインタビューされる。

 一同、どんどん波長が重なってくる! どんどん盛り上がる。

 あんなにぶっきらぼうだったトムが笑い、ジョークも飛ばす。

 何かがその場を動かしている。また妖精の仕業か。

 部屋の中央の暖炉の火もそれに反応してか、踊るように炎を揺らす。

 トムのファミリーの歴史からはじまって、彼の父親から受け継がれて来た物語、妖精の話、ケルト人の歴史、、、

 とにかく、とにかく、トムの「すべて」がキャメラに記録されていった。

 気づいたら、1時間を過ぎていた。

 僕は内心、ウェストポートでE子さんの帰りを待っている生徒さんのことを気の毒に思った。

 エドも時間の流れに気づいて、E子さんに目配せする。しかし、E子さんもトムの話に興奮していて、質問が止まらない。

 インタビューの終わりのほうは、僕はキャメラを回すだけに集中すればよかった。

 E子さんと打ち合わせもしてないのに、僕が聞きたいことを勝手に聞いてくれている。

 響きのオフィシャルサイトを隅から隅まで読んで、事前に勉強しない限りこの質問は出てこないだろうまで、E子さんの口から紡ぎ出る。

 とにかく異常なまで恐縮されたインタビューになった。

 さぁ、これでE子さんを帰さないと、、、と思ったら、今度はトムから、

 「今度はポチーン(POTCHEEN。アイルランドの代々伝わる密酒)にまつわる妖精の話をしてやる。ついて来い」

 と、部屋の奥の扉が開いた。それは、まるで「ひらけ! こま!」のように。

 その部屋は、まさに響きに取って宝の山だった!

 (後編につづく)

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【ディレクターズ・ノート:農夫トム(後編)】
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タイタニック号を作った道具 現地時間 2014.5.17. 13:00

 「開け! こま!」

 と、秘密の宝部屋が開いた。この扉の向こう側にこのような部屋があるとは想像も出来なかった。

 僕の目に飛び込んで来たのは、古きケルト人の道具、道具、道具!

 これもまさかこのような形で実現するとは、、、

 というのも、ケルティックの道具を撮りたいと願っていたのである。

 ベリー、ベリー、ラッキー!

 トムがそれらの道具の説明をひとつひとつしはじめる。

 その道具が意味する世界がわっと広がって、響きキャメラに記録されてゆく。

 中には、いろんな形を創る様々な種類のカンナがあって、興味深かった。

 あのタイタニック号をつくる時に実際に使用したカンナまであって、びっくりした。

 「こんな風に使うんだよ」と、実演してみせるトム。

 それからそれから、、、とにかく、続いた。

 この日もこれで終わらない。妖精さんたちの遊びはいつ終わるんだろう、、、以前、本島からアランに戻った時に起こったような連鎖がまたはじまった。

 一度経験しているので、妖精さんたちが眠りにつくまで続くんだろうな、、、と、思う冷静な自分が可笑しくなった。

 それから、今度は外に飛び出して、インタビューの時に話してくれた妖精の物語の実際の場所に連れていってくれたり、聖なる妖精の木も教えてくれた。

 また妖精はなぜ生まれたのか、その由来の場所まで案内してくれた。

 「すべて」が響きキャメラに。

 とにかく、この一日だけで、響き第2章ケルト編の3つのコンセプトのうちのひとつ、「ケルティック、妖精とのつきあい」が撮れてしまった。

 妖精さんたちに感謝! トムに感謝! E子さんに感謝! エドに感謝!

 そして、別れ際に、孫娘まで現れて、あの厳ついトムのメロメロ姿まで撮れた。

 やっと妖精さんたちとの遊びも終わりを迎えた。

 今回の響き第2章ケルト編にタイトルをつけるならば、「妖精と遊ぶ旅」がいいかもしれない。

 しかし、この日のオチがある。

 忘れてはならないのは、ウェストポートでE子さんの帰りをずっと待っていた可哀想な生徒さん。彼女は見事に妖精さんのイタズラにあってしまったなぁ。

 (※結局、取材が終わったのは、夜の7時。なんと4時間も取材していた。そして、外に出て取材している時、E子さんがウェストポートの生徒さんに電話をかけて、レッスンの日を改めることになったそうである)

 最後に、まだ会わぬ「ウェストポートのE子さんの帰りを待っている生徒さん」に感謝!

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【ディレクターズ・ノート:海の妖精さん】
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海の妖精さんからの贈り物 現地時間 2014.5.27. 14:00

 今度は海の妖精さんと来たぁ。

 もう、、ここまですべてがジャストタイミングに、次から次へと想定もしてなかったことが起こり続けたら、、、もしアインシュタインが生きていたら、その方程式を見つけようと躍起になっていたかも知れない。

 しかし、妖精さんの遊びは、いつの時も、人より一枚上手だろうなぁ。

 今日はアイルランドに、アランに、響きの旅に出て、はじめてキャメラを持たない日になった。

 歩き続けた90日間。やっとの休息日である。

 しかし、僕には目的があった。

 お世話になった、いや、お世話ところではない、命の恩人、TEさんとT子さんに、感謝のお礼をしたいと思っていた。

 しかし、お金は、ダブリンの空港まで行きつけるかどうかのレベルで、何かを買って贈り物にするなんて到底出来ない。

 アランは島。当然ながら魚介類に豊かと思いきゃ、とても高い。魚を求めるならば、上等のステーキが買えるくらいなのだ。

 理由はいろいろある。かつては半農半漁の島が、今では継承者がほとんどなく、廃れている。

 島に高校まではあるが、若者は大学に行く為に、基本、成人したら都会に出てゆく。

 しかし、戻って来る人はほとんどいないようだ。

 そんな事情もあって、漁師が獲る魚介類は非常に貴重で、そのほとんどをお金を持っている観光客に売るに充てがわれている。

 なので、シマンチューがお魚を食べられるのは、友だちの漁師からのおこぼれくらいだ。

 TEさんとT子さんが、魚を食べたいと言う。

 よっし!今度、時間が出来たら、釣りをして、TEさんとT子さんに腹いっぱいにお魚をご馳走しよう!

 そして、それが今日である。

 しかし、釣り竿があるわけがない。

 でも、釣り糸だけはなんとか調達出来た。

 糸の先に釣り針と重しになる石を取り付けて、あとはぶんぶんと振り回して遠くに投げるのみ。

 シマンチューしか分からないフィッシングポイントを教えてもらい、朝早くからスタート。

 ちなみに僕が今いるところは、オフロードの岩だらけ。岸壁を降りたり登ったりして、辿り着く。

 さすがに膝が笑った。

 でも、TEさんとT子さんにお礼のお魚をとその必死な思いだけで、ポイントに辛うじて到着。

 いざ、釣り、スタート!

 「・・・・・・」

 そうあまくない。

 浮きも付けてないので、とにかく、感覚だ。

 2、3時間経っても、一匹も釣れないので、諦めて違う場所を探そうと、垂らした釣り糸を巻き上げた。

 うむ、糸がちょっと重い!?

 なんと、一匹、釣れた!

 まぁまぁのサイズ。これなら、3匹釣れば今日のディナーだ!

 気を取り直して、同じ場所でぶんぶんと糸を振り回しては、遠くへ投げる。

 「・・・・・・」

 さらに、1時間が経ってもお魚は来てくれない。

 あぁ、さすがに釣りは難しいかなぁ、、、TEさんとT子さんになんとしてもお礼をしたいのに、、、申し訳ないなぁ、、、

 そこを諦めて、別のところに移ろうと糸を巻き上げはじめた。

 と、その時!

 海の底でこの様子を見ていた妖精さんが、釣れない僕を哀れみに思ったのか、釣り針に、どでかいお魚をひょういと付けてくれる。

 その大きさ、、、えーと、日本で言うと紅鮭一匹くらい、、、とにかく、どでかい!

 しかも、一度に5匹も!

 細い釣り糸が切れるんではないかと冷や冷やしながら陸に引き揚げた。

 あり得ない。でも、現実だ。

 とにかく、一瞬にしてミッションクリア!

 帰ったら、TEさんとT子さんも目を丸くするだろうなぁ。

 さて、一度にどでかい魚を5匹も僕に与えてくれた、海の妖精さん。

 その正体とは?

 ジャジャーン!

 僕が釣り糸を垂らしているところは、岸壁。その下を、遠くの海から一隻のボートが、どんどん僕のほうに近寄って来る。

 あぁ、エンジン音でさらにお魚が逃げるなぁ、、、でも、誰か知らないが、手は振っておこう。

 「おーい!」

 と、手を大きく降ったら、どんどん僕のはるか下まで近寄って来る。

 「僕は日本から来ましたぁあああ! いーまー、さ・か・なを釣っているんですがー、なかなか釣れませーん。ははは」

 「そうか、、、お前さん、魚がほしいのか。よーし、釣り糸を投げろー」

 「え!?」

 とにかく、ぶんぶん投げる。3度目で彼のボートに。

 何やら僕の釣り糸に魚をくっつけているようだが、遠すぎて見えない。

 「おーい、引き揚げろーおぉ」

 しかし、その声に、引き揚げようとしても、びくともしない。

 恐る恐る下を見るとなんと、どでかい遠魚でしか取れない魚が!

 多分、TEさんから聞いていた島の付近で採れる真タラだ。

 うぅ、、、でも、一度につけ過ぎやぁ。

 それから糸が切れないように格闘すること、20分。

 海の妖精さんからの贈り物を確かに受け取った。

 まさかこう来たか。

 僕に魚を与えてくれた海の妖精さんは、もう遠く水平線の近く。

 妖精さん、妖精さん、いつまで遊ぶんですか?

 あなたにはクライマックスはないのですか?

 でも、ありがとうございます。

 愛してますよぉ、妖精さん。

 僕のそれからというと、お天気も最高なので、岩の上で陽光を浴びながら、ゆうゆうとコーヒーを飲んで、これを書いている。

 帰って、TEさんとT子さんをどう驚かそうか。

HIBIKI Color 赤:太陽 黄:月 白:宇宙 これらの色を合わせて「世界」を意味する。