現地時間 2014.4.21 10:00
今朝目覚めても、まだ耳に残っているシマンチューたちの笑い声とアイリッシュミュージック。
昨晩、島のパブに人々が集ってイースターの夜を飾るというので、僕も立ち寄った。
想像を超えて、愉快だった。興奮しっぱなしの夜を過ごす。
歌にダンスに笑い声に、高らかと話し合う島のストーリーテラーたち。
あきらかに英語ではない。ゲール語が飛び交う。アラン諸島では今もゲール語が多く話されていると聞いてはいたが、こうして目の前で繰り広げられるとここは古代のまま現代にタイムスリップして来たのかと思った。しかもゲール語はその抑揚も古代っぽい。
僕も拙い英語とハートで、妙に深くコミュニケーションが取れて、いきなり粋なシマンチューの若者と友達になって、今日はお昼に彼が僕を迎に来る。
というのも、昨晩、彼は自分のiPhoneの中の映像を僕に自慢した。
それは、イニシュモアのぞっとするような断崖絶壁から海に飛び降りる彼の姿。
今日、それを私に生で見せるというのだ。
それを、4Kで撮ろう。ケルトの子孫のDNAはやはり命知らずか。
昨日という長い一日を振り返ろう。
(ハレルヤ! 中編)
老人ホームのロビーでしばらく待っていたら、ファザーがいる場所に通された。
礼拝の正装をされた年老いた彼はぴかぴかと輝いていた。なんというかこの世の人ではないようにさえ思えた。
ファザーは威厳さと柔らかさを漂わせて、異国からやって来た僕を暖かい笑顔で迎えてくださった。
カトリックの礼儀をまず通す。ファザーの前に軽く跪き、彼の手にキスをして、ご挨拶。
そして、簡単に自己紹介を終えて、アランのドキュメンタリーを撮りたい、助けてくださいと申し出た。
ファザーは笑顔で、僕のそれには答えず、僕が英語を聞き取れているかどうかも気にもせず、ずっとずっとご自分のお話しをされるのだ。
僕もなんとかその言葉たちの中に、ヒントがあるのではないかと、必死に聞いた聞いた。
アラン諸島の歴史、ケルティックとカトリックの関係とか、そのような話だったと思う。
そして、ファザーが一息つく隙を見て、もう一度アランのドキュメンタリーを撮りたいので助けてくださいとお願いした。
で、また、ファザーはご自分の話をずっとずっとされる。
「・・・・・・」
ははは、はははと会釈するしかなかった。しかし、内心は焦っていた。
しかし、ここはお祈りの力で突破だ。
「神様、私に英語を日本語に変えようとしないで、英語をそのまま受け入れるようにしてください」
すると、ファザーの言葉が少しずつ耳に残るようになったのだ!
そして、ファザーの言葉の一番最後の、一番肝心な助言に間に合ったのだ。
最後の最後に、シマンチューを紹介すると仰ってるのだ。
とあるレストランをやっている人で、この島で一番のケルティックだという。その人がいるレストランと名前を教えてもらった。
とにかく、藁は辛うじてつながった。今からそのレストランに向かおう。
ファザーにお礼を申し上げて、その部屋から出ようとしたとき、ふと思ったことがあったので、何気なしに聞いてみた。
「あのー この島に日本人はいますか?」
「お、ひとりいるよ、T子さん」
「え! いるんだぁあああああ!」
「どこに住んでいらっしゃいますか?」
僕はイニシュモア島の地図を神父に広げた。すると、彼はものすごくアバウトにこの辺だと言って大きな丸を書いてくださったのだ。
「もう少し小さい丸がいいのに、、、」と、思わずつぶやいてしまった。
よーし、「T子さん」だけで十分。歩いて歩いて探しだそう。
T子さんに会えば、この島の現状やいろんなことにアドバイスを頂けるかもしれない。
再び「希望」という二文字が頭にぴかっと灯った。
「ファザー、I Love You!」と叫んで老人ホームを飛び出した。
とにかく、大きな丸の方向に向かおう。
そして、歩いた歩いた。大きな丸の近くになって、通りにいるシマンチューにT子さんの居場所を聞いたら、
「おぉ! ストーンハウス」と言って、正確な場所を教えてくださった。ラッキージャストヒット!
そして、目の前に、ファンタジーの世界から飛び出たばかりかと思う石垣で出来たお家が現れた。
ドキドキ、ワクワク。いやドキドキのほうが80%。ドアのノックを叩く。
年配の男性が家の中から出てきた。
「エクスキューズミー T子さんはここにいらっしゃいますか?」
「いるよ。カミング!」
応接間にNさんがいらっしゃった!
(後編に続く)