世界の12の先住民族の物語を紡いでいく旅。ドキュメンタリー映画「響き 〜RHYTHM of DNA〜」
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12の先住民族
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DNA
12の先住民族
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ABORIGINAL:アボリジナル
CELT:ケルト民族
ALASKAN TLINGIT:アラスカクリンキット族
HOPI:ホピ族
TAIWANEE HILLTRIBE:台湾の山岳民族
NATIVE HAWAIIAN:古代ハワイの先住民族
AINU:アイヌ民族
UNKNOWN:未知
ABORIGINAL:アボリジナル
主なシーン
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【ディレクターズ・ノート:ベロニカ(前編)】
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【ディレクターズ・ノート:ベロニカ(前編)】

 2013年5月20日。その奇跡の予兆は前日の夜、起きた。

 アボリジナルの美しきベロニカ。彼女のインタビューを翌日に控えた僕たちは、備えるべく風景撮りも早々に切り上げ、キャンプに戻った。オーストラリアに来てから、はじめてゆっくり出来る時間が与えられた。

 洗濯板の上で、ぷくぷく泡立つ洋服を見るのは実に素晴らしい。洋服を手揉みすると、心まで洗われる思いで、いつまでもこうしていたいという衝動に駆られる。衣食住と言うからには、それらにちゃんと時間をかける日常生活をおくりたい。

 「ヘイ! ジムビーム」と、夕食の準備をしていた僕たちの背中に声が飛んで来る。

 振り返ると、がたいのいい中年の男がどでかバーボンの瓶を持って僕たちに勧めるではないか。

 「おお!」一同に歓声があがる。

 経費節約の為、オーストラリアに来てからお酒を飲んだのは、奇跡の祝いと名を打った数回だけ。

 日本にいる時はお酒を欠かしたことがなかった僕は、血液のアルコール濃度がみるみる下がっていくのを感じた。毎日、アドレナリンが放出しまくっているので、それがアルコールの代わりになっていて、そんなに苦にはならなかった。しかし、どでかバーボンを目の前に出されてしまった。僕たちから遠慮という言葉が逃げていく。

 その男、グレーンさんはトラッカーで、腕の太さは僕の腰くらいあるのではないかと思った。お酒があれば片言の英語でもかなりいけると分かった。グレーンさんと愉快な時間を共にする。

 その夜はお酒の力も借りて、久しぶりに深く眠った。

 僕はいったんカメラを回すと、どんなに蚊にかまれようが、ハエが水分欲しさに目の周りに集まって来ようが、微塵たりとも動かない。蚊にかまれ放題で、夜になるとあっちこっちが痒くて眠れない。また、アドレナリンがずっと放出されているのか、興奮気味で眠ってもすぐに目覚める。

 実はこの日、お酒があればぐっすり眠れるんじゃないか、明日のインタビューを万全の体調で取り組めるのになぁと、軽く願っていたので、素晴らしいタイミングで叶ったことになる。

 神様がグレーンさんを遣わしたのかもしれない。

 日の出前にすっと目覚める。熟睡したので、頭も身体もふわっとして軽かった。しかも痒みまで消えていたので、ジムビーム効果抜群。

 このあとインタビューを通して、ベロニカさんと深く触れあい、彼女の口から奏でる言葉が響きにエネルギーをもたらしてくれる。僕のこれまでの経験の中でも、もっとも美しいメッセージを頂いたインタビューになった。

 響きの奇跡。奇跡のインタビュー。

 響きにとってもっとも大事なメッセージが、ベロニカさんにあった。

 神様からのお酒の差し入れは、この奇跡の予兆に違いない。

 日の出に向かってお祈りした。

 「アボリジナルの大地の神様、アボリジナルの宇宙の神様。私がこの地でカメラを回し、あなた方の子孫、ベロニカさんにインタビューすることをお許しください」

 つづく。

 後編では、インタビュー前夜、僕はある覚悟を決める。その覚悟も今思うとベロニカさんの美しきメッセージにつながる伏線になっている。その覚悟とインタビューの奇跡を後編につづけます。

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【ディレクターズ・ノート:ベロニカ(後編:覚悟)】
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【ディレクターズ・ノート:ベロニカ(後編:覚悟)】

 2013年5月20日。僕は、覚悟を決めなければならなかった。

 響きのメッセージを伝える為に必要なカットは撮れてるのだろうか。響きは奇跡に出会う旅。そもそものコンセプトがそこにあるから、瞬間瞬間やって来る僕たちを導くメッセージに気づく必要がある。それは全くの想定外から突然訪れるので、気づかなければ奇跡は起きない。

 そのワンチャンス、ワンチャンスをつないで撮って来た。

 しかし、ドキュメンタリーにしてはカット数が少な過ぎる。足りるだろうか。いかにも「先住民族」なビジュアルを撮りに来たのではない。僕はアボリジナルの先祖から受け継ぐその愛をその美しさを撮る。

 例えば、それが都会に住むアボリジナルがそうであればそれを撮る。当初のプランの中にあったが、白人と血が混ざって大都市に住むアボリジナルの子孫が、自分のルーツを探す旅に密着取材したら、響きのコンセプトを撮れるのではないかとも考えていた。

 クランクインのシェーラさんにインタビューして思うものがある。それは、禅問答である。

 つまり、アボリジナルにとって僕がインタビューする内容に答えるのは無意味なのだ。例えば、「草はそこに生えてる」その意味は深い。それをあえて聞くのも虚しいことだ。

 「シェーラさんがこれから100年、1000年、1万年後の子孫に先祖からの英知を伝える為にはどのようにされるんですか?」

 僕の質問に対して、シェーラさんは、「これまでと同じ」とシンプルに言い切る。すごい答えだ。

 禅問答の世界観に近く、あるがままのものに対して、なんの疑問も解釈もなく、ただそれが壮大な事実として存在する。これは映像で表現するのがもっとも難しい領域に入る。

 響きの表現スタイルの特徴として、ローアングルに、もうひとつは「解釈しない」がある。具体的な方法のひとつとして、ナレーションを入れない。解釈は響きを見ている人に、100パーセント委ねたい。そうすると、禅問答を解釈なしに「伝わる」メッセージにするには、ディティールが必要だ。つまりアボリジナルの生活に寄り添うような密着撮影がそれを可能にする。しかし、アボリジナルのほんとうの日常生活に密着することは非常に難しい。

 では、道は? 僕は覚悟を決めた。

 それは、明日のベロニカさんのインタビューで、響きが伝えたいメッセージを発見出来なかったら、僕はここに残る。撮れないまま日本に帰ったら次のチャンスはない。アボリジナルの部族の中に飛び込んで、生活を共にしながら、彼らの淡々とした日常のディティールを撮影する。出来るまでは日本に帰らない。

 撮影クルーには、予定通り日本に帰って頂いて、後方支援に回って頂く。後を断つ。

 後を断つことで、そびえ立つ壁を破壊出来る。そう覚悟を決めた瞬間、あらゆる感情が噴き出した。日本にいるひとりひとりの顔が一枚ずつ頭に浮かんでは消えていく。しばらくして、その揺れは静まり、穏やかな水面にさざ波が立つ程度まで落ち着いた。そして、もう一度、自分自身に聞いてみたが、その信念は変わらなかった。

 よし! 覚悟を決めた。あとは天に委ねよう。ジムビームでリラックスした雰囲気の中、プロデューサーにそのことを告げる。

 プロデューサーも僕の信念を理解し、了承してくださった。神様からの差し入れのお酒が、僕を信念のまま眠らせてくれた。

 次の日、日の出を見る僕は一切の迷いもなく、一切の期待もなく、世界が涼しく感じた。

 「グッドモーニング、ベロニカ」と、挨拶のハグを交わし、インタビューの準備に取りかかる。

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【ディレクターズ・ノート:ベロニカ(後編:わくわく)】
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【ディレクターズ・ノート:ベロニカ(後編:わくわく)】

 2013年5月21日。昨日の夜、オーストラリアの北端の街、ダーウインに着いた。一晩キャンプして、今日は街を視察して回った。

 今、担いを終えた勇者えーちゃんをキャサリンに送る為に車を走らせている。これからオーストラリア大陸を今度はひたすら南下して、アリス・スプリングスを目指す。約2500キロの旅だ。

 ただ帰りはいろんな景色を撮影しながらになるので、北上の倍は時間がかかるだろう。

 今、こうして帰りの道を車で走っていることが不思議に思える。ベロニカさんのインタビューが奇跡を呼んだ!

 響きは全カットローアングルである為、インタビューを受ける人も低く構える必要がある。例えば、普通は椅子に座って頂くのだが、それだとあまりにもカメラが見上げるので顔の表情が撮れないことが分かった。つまりインタビューを受ける人の協力も大事で、低く構えて頂く。

 つまり「地面に座って頂く」母なる大地にどっと座って頂いて、地球とつながって撮る。

 響きは今後、全インタビューを地面に直に座ってやる。響きスタイルがまたひとつ発見出来た。

 光の加減と地面の感じなどを考え、インタビューの場所をベロニカさんに相談して決め、カメラのセッティングを終える。イボンヌさんの為に準備していた質問をベロニカさん向けに変更していた。

 しかし、ベロニカさんのことをよく知らない僕たちは、事前に準備しようにも出来なかった。つまりぶつけ本番にチャレンジ。僕たちは必死にやった。そのことに心を動かされたベロニカさんも必死に答えた。

 この必死さが奇跡をひとつ、ひとつ起こしてゆく。上達な言葉は、ともすれば心の通った真のコミュニケーションを邪魔する時もある。僕たちは英語が堪能でない為に、お互い分かりあおうと必死になった。

 そこに言葉では言い表せない何かが生まれたのだろう。僕はベロニカさんが日本語を分からなくても、彼女の目をまっすぐ見つめて、いっぱいの愛を込めインタビューした。僕の言葉に宿る魂を感じてほしいと祈りを込めて。すると、不思議なことが起きはじめた!

 僕が日本語で質問している時、ベロニカさんが笑顔で頷きはじめる。言葉が言魂になって伝わってゆく。はっきり感じた。僕にもベロニカさんの言魂が伝わって来る!

 言葉の壁を乗り越えた瞬間だった。それをカメラが捉える。そこからは奇跡が洪水のようにうねりを上げながらやって来た。ベロニカさんのスピリッツと響きのスピリッツが自然に重なりはじめた。

 美しい瞳がさらに輝きを増して来る!

 言葉を超えたメッセージがカメラに収まっていく。

 若きベロニカ。その口が紡いでゆくメッセージには、紛れもなく5万年以上をこの過酷なまでの環境で生き続けて来た先祖の英知、子孫への深き愛があった。しかも、先祖からのメッセージをこの現代にフィットさせてゆくベロニカさんの感性は長老級だ。その迫力。

 神様が巧みに仕掛けた場所に、僕たちとベロニカさんがたまたま居合わせたようにさえ思えて来た。インタビューが終わって、ベロニカさんと僕たちは歓喜に満ちて抱きしめあった。

 何が起きた?

 彼女も自分の口から紡いで出るメッセージに喜びを覚え興奮していた。

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【プロデューサーズノート:ベロニカさんインタビュー(3−1)】
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【プロデューサーズノート:ベロニカさんインタビュー(3−1)】

 2013年5月23日。いま、アリススプリングスに南下中、球状岩石群デビルズマーブルに立ち寄ってキャンプをしている。

 世界でも稀に見るような絶景の中で、夜長、いろいろと考え事ができるのはなんとも贅沢。

 ちょっと遡るが、一昨日のベロニカさんのインタビューを自分なりの視点で振返ってみたい。

 本来であれば無理であったはずのインタビューが実現したのは、様々な要素が複合した結果だと思うが、最大のポイントは監督と、日本から同時期に側面支援をしてくれた仲間や偶然出会ったえーちゃんの熱意の総量が最後の壁を抜いて動かしたからだろうと思う。

 それは奇跡とも呼べるし、よくあることとも思えるが、大事なのは熱意が本物であるというか、純粋で真剣であったことによるのかなと思う。

 冷静に事象を思い返すと、

 ・アボリジナルの文化を肯定的に表現したいクルーがやってきている
 ・福島の「子ども達」を勇気づけるメッセージが欲しいと言ってきている
 ・アポ無し訪問はいささかルール違反だが、超遠路はるばる目の前まで来ている
 ・おにぎりを持って友好的に交流を望んでいる

 という条件が揃った場合、自分が担当官でも、受け入れる方向を選ぶかも知れない。どちらかというと受け入れる方向に心情的にはは傾くだろう。そう考えると、要素的には、あたりまえのことが起きただけともとれる。

 とはいえ、担当者は、前例を作らない為に、アポ無し訪問は断る方向を選ぶだろう。そのほうが、今まで断ってきた人にも顔が立つし、それがフェアだとも思う。職務を全うするには、自分の感情は置いておいて、たいていは断る方向を選ぶだろう。さらに今回、非常に難関であったのは、イボンヌさんが次から次へと続くメディアからの接触や、企業筋からのプレッシャーで心労が激しいことだった。ディビッドさんからすれば、イボンヌさんの立場を代表して彼女を守るのは当然だった。

 かくして、今回のトライは普通なら失敗に終わるはずのところが、あるポイントで好転した。それは監督が真剣に粘った直談判においてだ。

 担当のディビッドさんの目をしかと見つめて、真剣そのもので食い下がる監督。ディビッドさんの目の奥にぽっと灯がともったような気がした。

 「結果、どうなるかはわからないよ。それはわかってくれるよな?」とエクスキューズは入ったが、ディビッドさんが立場はさておき、自分の心に素直になろうと、前向きに協力を決めてくれた瞬間だったように思う。

 繰り返しになるが、今回感じたのは、前に進めるか、進めないかをの瀬戸際を好転させるのは、相手の心を動かす真剣さが本物かどうかだけだと思う。受ける方だって本当は沢山の選択肢をもっているけれど、たいがいはセオリーに沿って動いているのが通例なだけで、違う選択肢を選ぶかどうかは、心一つなんだなぁ。

 似たケースで、「夜討ち朝駆け」のような手法で畳み掛けるシーンが頭をよぎる。営業現場では、古いと思いながらも、いまでもよく使われている手法ではないだろうか? 僕は「夜討ち朝駆け」はするのもされるのも本当は好きではない。

 ただし、受け手がそれを不愉快に思い、より距離を保とうとするのか、逆に協力的に動こうと思うのか、それは、相手の打算を感じるのか、純粋性や覚悟を感じるのかの違いによるのかなと思う。セクハラかセクハラでないか、パワハラかパワハラでないかの瀬戸際が人間関係でによって分かれる事と似ていないだろうか? 違うかな? そこに愛があるかないかの差というか? そこに関わるファクターが「愛」すなわち「純粋性」なのかなと思う。

 普段は、こういうことはあまり考えないのだけれど、今回、なぜ上手くいったのだろうかと振返ると、そこに監督の純粋性があり、監督に触発された東京の仲間やえーちゃんの真摯な態度が触れたからだろう。

 そう考えると、今回の一連の流れは、奇跡という言葉よりは、奇跡的な流れが生み出されたドラマなのだという気がする。

 監督や、世の中で奇跡的なことを生み出す人は本当に純粋なのだと思う。しかし、純粋とは、いったいどこあたりからやってくる狂気なんだろう?

 僕にとってみると、ここまで純粋な人がいることが奇跡かもしれない。かくいう僕がいま、オーストラリアの中央沙漠に導かれているのも、監督の真剣さに突き動かされたからなのだなぁとあらためて今思っている。

 「真の純粋な気持が人を動かす。」

 ドラマや映画ではよく見ることだ。しかし、現実ではなかなか遭遇しない。みんな、いろいろ複雑な事情の中で日々暮らしながら、純粋性を保つのは本当に難しいだろう。でも純粋性があれば、誰にだって奇跡的な展開は迎える事ができるんだなぁと思った。だってそこにいるのは人間対人間なのだから。難しいかもしれないけれど、覚悟があれば誰にでもできることなのかも知れないなぁ。

 でもでも、覚悟ってどこからやってくるんだろう。寝ている間にすーっと宿るものなのだろうか?

(続く)

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【プロデューサーズノート:ベロニカさんインタビュー(3−2)】
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【プロデューサーズノート:ベロニカさんインタビュー(3−2)】

 2013年5月24日。ディレクターズノートにもあったように、ダメかもなぁ、どうかなぁ・・・でもやるだけの事はやったし、後は座して待つのみだなぁと、中途半端な時間をどう使うか迷いつつキャンプ場に居る時に、えーちゃんの電話が鳴った。

 えーちゃんは、僕らの100倍は英語が上手だが「電話英語は苦手」らしい。

 「なんか、ようわかりませんけど、事務所に来い、言うてるみたいですわ。妹さんのダンスとかミュージックとか言うてました。とにかくすぐ行った方がええんちゃいますか?」とのこと。

 イボンヌさんがOKか?NGか?、の返事を待っていた我々には「ダンスとかミュージックとか・・・」全くわけがわからない。とにかく事務所に急いだ。

 結果はすでにご存知のとおり、イボンヌさんはダメだけど、妹のベロニカさんならインタビューに応えてくれるという話だった。しかもベロニカさんは事務局の職員だった。ダンスとかミュージックを子どもに教える担当さんということだったらしい。しかも、美人で若い。めっちゃ絵にナル〜。と不謹慎なことを思ってしまった。超ラッキーカムカムだった。

 事務所に着いたのは金曜日の4時半だった。オーストラリアに来てから、9時5時の世界を何度も感じていたので、今日中のインタビューはまずありえ無いなと思ったら、やはりそのとおり。ではいつにするのか?

 月曜の朝9時においでなさいと言われた。おおおおおおおおおおおおお!

 オーストラリアは、スーパーでも土日は半休してしまう程、休む時は徹底して休む国だ。ましてや事務局職員の方が金曜の4時半に「月曜日の朝9時」にと言っているのは「じゃあ30分後に始めようか!」と同じ意味である。要するに「よっしゃ、今すぐやろう!」と言ってもらっているのと同義なのである。超ラッキーカムカムだった!

もちろん、酒を解禁してビールで祝杯をあげたのはいうまでもない。

(続く)

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【プロデューサーズノート:ベロニカさんインタビュー(3−3)】
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【プロデューサーズノート:ベロニカさんインタビュー(3−3)】

 2013年5月24日。インタビュー当日、月曜日、朝6時起床。9時からのインタビューに備える。事務所まで5分だから、3時間ある。

 イボンヌさんに向けて準備してきたことをベロニカさん向けに修正することも終わっているので、あとは9時を待つのみ。ゆったりした時間が過ぎる。のこりご飯でおにぎりを作り朝食。冗談を言いあったりしていたが、さすがに30分前となると緊張感がでてくる。

 リラックスリラックスと思いながらも、三者三様にちょっとずつぎこちなくなっている。初舞台の幕開け直前の感じかな。15分前にキャンプを出て遅刻しないように努めるが、監督が道を間違えた。やはり、大一番が近いのだ。それでも遅刻なく事務所に到着。

 ハイタッチで意識合わせをし、事務所のドアを開く。

 ハロー、モーニン!!

 ベロニカさんのインタビューに来ました!と眼鏡の年配女性につげると、何回か顔をみたことのある白ヒゲで恰幅のいいヘミングウェイっぽいおじいちゃんがでてきた。

 「おぉ、インタビューね、聞いてる、聞いてる。君たちはどこで撮りたいんだ?」と聞くので、実は響きはユニークな撮影スタイルがあるので、外で地面に座って撮りたいんだとえーちゃんが準備したとおり流暢に告げた。

 ヘミングウェイさん、躊躇なく「OK、OK、こっちなんかどうだ?」と裏庭を案内してくれる。キッチンの場所も教えてくれて、「コーヒーはココで勝手に飲んでいいぞ〜!」なんて、やけに優しい。いやいや、我々かなり厚かましいけど、そこまでフランクじゃないので、勝手にコーヒーは作らないです、ヘミングウェイさん。

 庭を紹介したらヘミングウェイさんは「じゃあな、あとは好きに場所決めな!」みたいに去って行く。

 玄関のロビーでとり残される三人。ベロニカさん、なかなか出てこない。10分、20分、また緊張してくる。忘れられてない? もしくは、こちらから場所決めしたら伝えるのをまってるんじゃないのか? 聞いてみよう!ということになり、永ちゃんが恐る恐る聞きに行く。

 眼鏡の年配女性が、忘れてないわよ。もうちょっと待っててね、と悪びれず言う。

 あ!アボリジナルタイムか? 琉球タイムやインドタイムみたいなもんがあると聞いた気がする。9時5時の世界かと思ったら、アボリジナルタイムもありだったのか。かくして、ベロニカさんが出て来たのは40分ぐらい経ってから。

 「ごっめ〜ん!!」と現れたベロニカさん。めちゃキュート!

 「ぜんぜんかまいませーん!!」と三人の緊張が一気に溶けた。

 「外で地べたにすわってもらってもかまわないかな?」

 「おー、ナイスアイデアじゃない!いいよ!オッケー!」

 ベロニカさん、めちゃフランク〜。常に明るい笑顔が、僕らの肩の力を抜いてくれる。

 監督と、えーちゃんが、打ち合わせに沿って質問を始める。たまに予定にない質問も挟まるが、えーちゃんが一生懸命伝える。ベロニカさんも一生懸命聞いて、流暢に自分の意見を語っているようだ。僕は半分以上内容はわからなかったけど、三人のムードがとてもよい。穏やかな素晴らしいインタビューだったと思う。

 ベロニカさんは、ダーウィン生まれで、生粋のアボリジナル集落で育ったわけではない。しかし、アボリジナルの伝統もよくよく理解し、その良い部分を絶やさない意思が感じられる堂々ぶりもあった。ウランの件も、先祖からあの山には近づくなという言い伝えがあったこと、動物に変調があったので、近づかなかった。ウランが掘り出されなければ福島事故の影響もなかったと思うと気になる、と言ったように思う。もっと英語が達者な人に見てもらわないといけないが、たぶん間違いないと思う。

 インタビューの冒頭で、監督が、太平洋戦争でダーウィンを空爆したことを日本人として詫びた。ベロニカさんは若い。そのことを忘れずにいてくれればそれでいいのよ・・・、というような表情で「気にしないで」と言ってくれた気がする。過去の教訓を未来に活かすライトなムードに希望を感じた。過去の過ちは水に流すことはできないかも知れないが、溶かしていく歩み寄りは必要だ。

 福島の子ども達にメッセージをもらった。短い言葉でまとめられていた。どんなニュアンスか、翻訳の専門家から早く教わりたい。子どもたちの未来を勇気付けてくれたらいいなぁ。

 和やかにインタビューが終わったあと、監督が、日本ではハッピーでウキウキな気持ちを表現するときに使う言葉として「ワクワク!」と言うのだ、と身振り付きで教えた。身振りは、お笑い芸人ゆってぃの「ちっちゃいことは気にすんな、それ、ワカチコ、ワカチコ」のパクリである。逆? 両腕の脇を開け閉めしながら「ワクワク!」と言うと、なんだかそんな気分になってくる。ベロニカさんが監督に続いて「ワクワク!ワクワク!」と繰り返す。可愛い!!みんなが笑う。ひょっとして、この言葉、アボリジナルで流行るのかも。

 たった一時間のことだったけれど、終わったあと事務所に挨拶に行くと、ディビッドもダニーもヘミングウェイもみんな、よかったな!的なことを言ってくれる。ヘミングウェイさんなんか特に自分のことのように満顔の笑顔で会釈してくれた。

 ベロニカさんインタビュー、よくぞ実行できたものだ。数々の皆さんに、感謝感激雨霰。

 人の心はこうして繋がっていくのだなぁ。

 響きは映画制作なんだけれども、プロセスに意味があるのかもしれない。

HIBIKI Color 赤:太陽 黄:月 白:宇宙 これらの色を合わせて「世界」を意味する。